どっちもどっち















 

 

発端は女騎士の一言だった。

 

「貴方達って本当に仲が良くないのねえ」

 

「当然だ、なぜこんなコレラ菌にも匹敵する有害細菌と仲がよくなければならない?」

「うるせえ、こんな性格破滅型の黙示録的お子様なんかと仲良かったらそいつは間違いなく地獄の住人だ」

「誰がお子様だと?ガン細胞並に悪辣かつしぶとい御老人には言われたくないな」

「全生物的に言っててめえ以上にしぶとい生き物なんざ見たことないね」

「井の中の蛙という言葉を知っているか?」

「厚顔無恥って知ってっか?」

 

 

 

この際だから二人の第一印象を別々に聞いてみる事にした騎士たち。ノリの良い彼らは酒まで持ち出して迫る。

 

「あのデカブツの第一印象か。―――磔にされた英雄、だな」

 

「あのクソガキの第一印象?―――慟哭する獣か血を流す剱だな」

 

 

「へえ。」

「意外―。ムカついたーとかじゃないのか」

 

 

「まあ実際ムカついた訳だが。
あの筋肉馬鹿の目には自分の信念しかなかった。自分が信じるもののために生きる奴の目だ。鎖で無様にも地面に縛り付けられていたが、奴の目に濁りはなかった。良し悪し全て取り込んでそれでも自分を捨てていなかった。まあ―――ごく当然のことなんだが、自分で人生を選んで自分の人生をごく普通に過ごしているような。自分の思うとおりに自分を動かす動かせるような」

 

「どっかに大怪我してんのにそれがどうしたって言わんばかりの、なんつーかな・・・雰囲気だった。
自分が大怪我して、でもそんなことより大切なものがあることを知ってる。自分が怪我する事よりそっちを守る方が優先だって知ってる。
だからっつって自分の痛みを後回しにしてるがな、普通は自分の痛みに悲鳴を上げてベッドにもぐりこんだってかまわねえだろ?奴はそれをしないだろーな、たぶん。可愛げの無えガキだぜ」

 

「どんな境遇に落ちようとそれを苦とも思わずに生きて、英雄になる奴の目だ。本人にそのつもりが無くとも、奴が自分を貫くだけで奴は英雄になる。真っ直ぐ前を見据えて、時々後ろを振り返って、落ち込んだり怒ったり悩んだり悲しんだり、実に人間らしく生きていく。
自分だけの道を行くとか、人道から外れるとか、そういうことじゃない。奴の歩んだ道が王道中の王道になるんだ」

 

「自分の血にまみれてもやるべきことをやって、誇り高く生きてくんだ。
・・・ガキの生き方じゃねえな。普通は、まだ親父の背を抜けなくて歯噛みしてる歳だ。周囲に温かく守られて幸せをかみ締めて自分を育ててる時だ。
だがあいつは・・・鉄火場に立って特攻かけてくみてえな、何かを守るために躊躇い無く飛び込む
いつ死んでも悔いは無い。
いつ死んでも未練は無い。
自分に怠けることを許さない。自分の痛みを、感情を抑えて、自分の(ことわり)を何があっても曲げない。たとえそれが自分を酷く傷つけても

 

「結局のところ、奴は生まれながらの英雄だ。
罠に嵌められて鎖にしばられたとか言ってたが、妬まれたとかそんなくだらない事で嵌められたんだろうな。奴が縛られた時、反対した者は多かっただろう。奴はそれだけ、周りの者に憧れを抱かれる。
存在そのものが英雄だからな。
本人がそうと思っていなくとも、奴の揺るぎない道は他者には眩しい、憧れの道だ。」

 

「ようするにあいつは生き急いでるし死に急いでる。
絶対に死んでやるかってのと必要なら死ぬのも構わないってのが同居してんだ。
それで筋が通るならそれが当然、迷う事は無い、それが理の通ったことならそれが必然、構う事は無い。
実際、恨まれる生き方だと思うぜ。一本、筋を通さねえで生きてる連中が世の中にゃア多いからな。
それに奴は強すぎる
傷だらけになっても歩いて行けちまう隣に誰もいなくても立てちまう。独りで、自分が流した血の道を孤高を保って歩み続ける。痛え生き方だ」

 

 

「・・・喧嘩してるだけじゃなくてきちんと理解してるのね。」

「・・・・・そんだけ相手の事分かってりゃいいパートナーになれんじゃねえ?」

 

 

「パートナー?
ハッ、冗談を言うな。
奴の事を理解した上で毛嫌いしてるのがわからんか。あんな筋肉と鈍感でできた男をどうやって信頼しろと?
奴のような生き方は俺はしない。
俺は自分と自分の周囲だけを守れればいい。俺一人では背負えないものはこの世には腐るほどある。何でもかんでも背負って、奴のようになるつもりはない。
国を背負う王のような生き方はな」

 

「パートナーだぁ?
ふざけんなよあんな凶暴なガキに背中預けたら即座に敵地に蹴りこまれるに決まってんだろ。
それに俺が文句言いつつもあのクソガキに付き合ってやってんのはあいつといると鎖の束縛がなくなるからだ。
後はまあ、ほっとくと早死にしてまた鎖が元に戻ると困るしな。あのクソガキそーゆー生き方してるからなー。分かって無えようなら殴っとこうかとも思ったが、ありゃ全部分かってるな。ホンットにガキらしくねえっての」

 

 

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

「でもなあ」

「そうねえ」

「基本が正反対でも、あいつら行動はほとんど同じだよな」

「あれで気が合わないって言いはる方が無理があるわよね」

 

 

先日も、道端のチンピラをぶん殴っていたが、二人とも理由は

『掛け値なしの馬鹿だったから』

本気(マジ)でどうしようもない阿呆だったから』

ほとんど同じである。

 

この間殲滅させた盗賊団をターゲットにした理由は

『ここらで中規模の盗賊団で他の盗賊への警告になるし、人身売買やらを一番多くやっていた、付け加えるなら反吐が出る連中が多かった、ため抹殺決定とした』

『一番プライドが無くてタチの悪い奴らだったしな。一番武装が多いとこだってんでそこをまず押さえとくかって思ってよ』

似たり寄ったりである。

 

 

「貴様のような未知の細菌は小惑星にでもへばりついて燃え尽きるがいい。跡形も残さずに酸素が始末してくれる」

「月ができた時の隕石並に危険な奴が普通始末されるべきだろ先に。譲ってやるからさっさと逝ってこいや」

「慎ましく遠慮させて頂こう、俺は謙虚だからな。
しかし図々しさでは他の追随を許さない貴様が譲るとは天変地異でも起こりそうな異変だな。冥界の門を開けておいてやるからハデスにでも頼んで天変地異を無くして貰え。そしてあわよくばそのまま死すがいい」

「てめえに図々しいとか言われたくねえよクソガキ。
ケルベロス(地獄の門番)は倒しといてやるからてめえがいってこい、そんで天変地異を無くしてもらったあと三途の川に沈んで二度と浮いてくるな」

「どこまでも馬鹿だな貴様は。この俺に地獄の支配なんぞ似合うわけ無かろうが。どちらかといえば裏方がいい」

「なんでそこで支配になってんだよてめえはよ。なんでハデス倒すの前提なんだよ。しかも裏方がいいとかさりげなく希望いれてんじゃねえよ」

「希望もクソも無い貴様に言う権利は無い」

「希望もクソも無えだあ!?地獄を振り撒いて歩いてんだったらさっさと本場行ってこいつってんだよ俺は!俺の一番の希望はそれだ!」

 

 

 

「仲良いわよねぇ・・・」

「広く見ればな」

 

殺人級の攻撃の応酬を見ながら暢気に会話する騎士たちに、二人を止めるなどという自殺行為を行う者はいない。

 

「奴を嫌う理由?
別に嫌いなわけじゃない。
自分がどういう存在なのか爪の先ほども理解せずに一般人を気取ってるところが気に食わないだけだ。
後は個人的な理由だな。筋肉が無くて悩んでいる全世界の男子の前であの筋肉を見せつけてみろ、秒殺確定だ」

 

「あいつを嫌う訳?
別に嫌ってんじゃねえよ。
まだあいつは16だってのに自分の死に方を決めちまってる。幸せに死のうとはカケラも考えてないところがな、あんまりガキっぽくないんで少しはガキっぽくしやがれとか思ってな。
後はアレだ、生意気でムカつく」

 

 

 

「サルみてえにちょこまかしやがっててめえはよ!」

「血筋で言えば貴様の方がサルに近いぞ北京原人。」

 

 

 

「・・・なんかさあ」

「ああ」

「どっちもどっちだよね」

「二人とも頑固だしな」

「むしろ頑固であるという一点のみが原因だよね」

「確かに」

 

 

日が暮れた頃ようやく帰ってきた二人は傷一つ無かったが、なぜか魔物の血に塗れていたりして一体どこで何をやってきたんだと王子は頭を抱えた。

 

 

 

 


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