昼・あるおしゃべりな銃と気性の荒い美人







一挺の銃がありました。

いえ、銃じゃないかもしれません。

でも、自分で銃だと言い張っていました。

銃には持ち主がいました。

 

若い青年でした。

 

 

「思うんだけど」

「黙れ」

「いや、だってさあ」

「五月蠅い」

「でもさ、レヴィン?」

「レヴァインだ」

「これは、レヴィンのせいだと思うよ?」

「レヴァインだ」

 暗灰色のマントを羽織った人影から、二つの声がしました。マントですっぽりと身体を覆ったその格好は、この砂漠の町にはふさわしいものでした。

 彼らのいる場所は酒場でした。いえ、酒場だったといったほうが良いかもしれません。

彼らのいるその酒場は、今や廃墟と化していました。

砂漠のオアシスの近くに出来た街にも、街が大きければ大きいほど治安が悪い場所も大きくなります。その治安が悪い場所の中心にこの酒場はあったはずなのですが、荒くれ者どもの溜まり場だったこの場所に今存在しているのは、穴だらけになった壁、今にも崩れそうなほどかたむいた屋根、そして大小無数の石片・木片、それらと一緒になって散乱している人間たち。

「そもそもお前が声を出したのが悪いんだろう」

 低くて、明瞭な声音が不快もあらわに言いました。

「いやいやいや、それにはふかぁい理由があってですね。あのあまりにも見事なスキンヘッドを見たらこれはもう『ハゲだ!』と叫ぶしかなか」

「喧しい」

 最後まで聞かれずに一刀両断された声は、低い女性の声にも聞こえましたし、男性の声にも聞こえました。端的に表現するならば中性的な声でした。

「ぐはっ無視ですか畜生」

「・・・・・分解されたいんなら止めないが」

 ひんやりと冷たい声に脅されて、結構な大声で悪態をついていた中性的な声は沈黙しました。その沈黙の中では『沈黙は金、雄弁は銀』という東のとある国のことわざが渦巻いていましたが、「雄弁は銀って言うのに」という愚痴を低い声の主が聞いたら、「お前のは雄弁じゃなくて無駄口というんだ」と鼻で笑われていたことでしょう。

「お・・・・・おま・・・え、何者だ・・・!?」

 あたりに散乱していた人間の体の一つが、赤い液体にまみれた顔を歪めて言いました。

「うわあ、オッサン生きてたんだ。呆れた生命力だなぁ」

「当然だ、殺してない」

 灰色のマントを纏った人影が、フードをゆっくりと脱ぎました。その下から現れたのは、どちらかというと繊細な容貌の、黒い髪と深い海のような美しい群青色の目が印象的な、青年の顔でした。

「そんな簡単に人を殺してみろ、あっという間に手配される」

 硬質な美貌が発した声は低く明瞭なものでした。黙って立っていれば人形のようにも見える青年が赤い液体にまみれた顔を見下ろすと、その鼻が変な方向に曲がった赤い人間はちょっと呆けたような顔をして青年を見上げました。

「オッサンがレヴィンに見とれてるー。惚れたらヤケドするぜこの野郎!」

「レヴァインだ馬鹿が。何回言ったら覚える」

 群青色の瞳を不愉快な色に染めて、レヴァインと名乗った青年はマントの中に手を突っ込みました。引っ張り出したのは、一挺の銃です。

「ぐはっ馬鹿ですか畜生」

 銃は結構な大声で悪態をつくと、そのままぶつぶつといじけ始めました。

「どーせ銃だから何にも出来ないとか思って好き勝手やりやがってさ、銃の権利はどーなるんだ!まったく、こーなったら撃ってる途中でジャム(廃棄不良)ってや・・・」

がちんという音がしました。

「・・・・・永遠に眠りたいなら止めないが」

 零下の声がしました。

レヴァインが、手を銃の上に乗せて、銃身の筒の部分を握って少し引きました。

「ぎゃー!やめろ畜生殺す気かー!」

「死なない癖にか」

「・・・・・言葉のあやだなぁ!」

 銃は装飾の少ない黒いものでした。見たことの無い形の銃に、いつの間にか気が付いていた人間たちが注目します。

「おおう、大注目を浴びている!?なんかカンドーだよレヴィン!」

「・・・・・・一度も使わない内にお別れになりそうだな」

「あー!ゴメンナサイ分解しないでー!だって発音しにくいんだもーん!?」

 慣れた口ぶりで話す一人と一挺が、これでも出会ってから半日も経っていないと、一体誰が想像できたでしょう。一人と一挺のなんともいえないミスマッチに、神様も嘆くばかりです。

 

 

一人と一挺が出会ったのは、じりじりと照りつける太陽の下でした。

 

 

朦朧とした意識に、声が割り込みます。

『抵抗しなけりゃこんなことにもならなかったのによ』

『どっちみちこうなったら終わりさ』

 自分の手が持ち上げられて何かに括りつけられるのがわかりました。がちゃがちゃという金属音が耳について、うっすらと目を開けます。

『おい、こいつ目を開けたぞ』

『マジ?しぶといね。あんだけやられてまだ意識あるって?』

 鈍い音と同時に鳩尾に衝撃が打ちこまれ、意識とは裏腹に体が曲がり、思わず咳き込みます。

「か・・・ふっ」

 自分のひゅうひゅうという喘鳴のような呼吸の音だけがやけにはっきりと脳に響きました。

『おい』

『どうせ死ぬんだから何やったっていいだろ』

『やめとけって』

『いいじゃねえかよ、お綺麗なツラしてんじゃん』

やけに遠く聞こえる声が近くに寄ってきて、ぐいと顔を上げさせられます。

『なあ?お前だって死ぬ前にイイ思いしてえよなあ?』

 霞んだ視界に、下卑た笑みを浮かべた口が浮かび上がりました。

自然と、唇が嘲笑を刻むのを感じます。

『だあっ!てめえ!』

 頬に衝撃をくらって、口の中にさっと鉄錆の味が広がります。

『どうした?』

『この野郎、指噛みやがった!』

『・・・・・・自業自得だろ。遊んでないでさっさと引き上げるぞ』

 声が遠ざかり、いてえいてえとみっともなく騒ぐ声も遠ざかっていきます。

『オイ、いいのかよソレ。けっこう値が張ったんだろ?』

『いいさ。冥途の土産にくれてやろう。こいつには多少同情しなかった訳でもないし、運が良ければ生き残るだろう』

『けっ、よく言うねえ。それ、弾出ねえじゃねえか。』

『使える奴には使えるって伝説持ちの銃なんだ。残念ながら俺には使えなかったが』

『アホくせ。見栄えはいいんだからさっさと売っ払っちまえよそんな銃!』

『フン、お前より付き合いの長い銃だ、売れる訳がない』

 色々言い合う声が聞こえてきていましたが、会話の意味を理解できるほど思考が回復している訳ではなかったので、それはただの雑音に聞こえました。

 とさり。

 砂が崩れる音が、最後に聞こえました。

 

 

「ねー」

「・・・」

「聞いてる?」

「・・・・」

「おーい」

「・・・・・」

「無視ですかー?」

「・・・・・・」

「起きやがれこのクソバカ野郎!」

「死にたいかそこの銃」

「すんませんでした」

 即行で謝る銃は、砂漠のど真ん中で砂に埋もれかけていました。

 そしてその側には木組みに鎖で括られた細身の青年。

 熱砂に嬲られ、ぐったりとしたその姿は今にも死にそうに、どころか今死にましたと言われても納得しそうなほどぼろぼろでした。元は簡素なシャツだった麻の布はあちこち破れ汚れて、その下からのぞく砂漠には不似合いな白い肌が、ところどころ陽光の暑さのせいだと思うには度が過ぎるほどに赤く、痛々しく変色しています。

「・・・・・・最悪の目覚めだ」

 不機嫌に呟く口元には、乾いた血がこびり付いています。

「大分ボロボロだねぇオニイサン。」

からかうような調子で言葉を発する銃を、ありえないものを見たとあからさまに告げる目線で一瞥し、青年は自分の身体を見下ろしました。銃がなにやら哀しい沈黙を放ってきますが、一切無視です。

「・・・・・」

眉を顰めて難しい顔をしますが、痛みに顔をしかめた訳ではないようでした。じゃらり、と鎖を鳴らし、頑丈な木組みに括りつけられた手を引っ張ります。

「・・・・・・」

 青年は首を捻って繋がれた手を見つめていましたが、ふいと視線を外すと足に力を入れました。鎖に繋がれ両腕でぶら下がっていた身体がゆっくりと立ち上がり、背筋を伸ばします。

「あのさぁ」

 銃が何か言ってきますが完全に無視しました。目元にかかる前髪を頭を軽く振って鬱陶しそうにはらい、少し身体をかがめます。

「ねえ、オニイサンさ、聞いてくれよ」

「断る」

 一言発するやいなや身体を跳ね上げ、繋がれた手を起点にして木組みの上に見事に着地します。いわゆる逆上がりの要領ですが、相当に身軽でないとこのような芸当は出来ないと断言していいでしょう。青年はその体勢のまま木組みから鎖を外します。

「その鎖。ブッ千切るのって無理だろ?」

「・・・・・・だから、何だ。お前を使えとでも言うつもりか」

 明瞭で、低い声が突き放すように言いました。低いくせにやけにとおりのいい声で、だからこそ冷たい感情がリアルに伝わってくる声でした。が、

「ご名答」

 銃は人をくったような返答をして続けました。もし銃に顔や身体があったなら、にやりと笑って肩をすくめていると想像できるような、妙に人間味に溢れた声でした。

「砂漠の中で野垂れ死にたいなんて誰も思わないだろ?人も、銃も

「・・・・・・」

 青年は手元の鎖を見つめました。鎖は腕にくいこんでいて、さらにご丁寧に南京錠でがっちり止められていて、素手では取れそうにありません。そして、青年は鎖が錆びて自然崩壊するのを待つほど不死身でも気長でもありませんでした。

「・・・・・・仕方ない、か」

ポツリと呟いて鎖を鳴らしながら木組みの上から降ります。

「あ、使う気になってくれた?」

「死ぬよりはまだマシだ」

 正直喋る銃などを使うのは気が引けましたし気味が悪かったりしたのですが、命には代えられないようでした。

「まだマシってひどっ!こんなにフレンドリーな銃を捕まえて何をおっしゃるのニイサン!っていうかこの先死ぬまで持ち歩くって約束・・・・いや、契約か。してね」

「・・・・・・」

 このふざけた銃は何を言っているのか的な視線で見下ろすと、銃は少し慌てた風に言いました。

「いや、だってそういう契約交わさないと使えないし!そういうモンなんだからしょうがないじゃん!?だからそんな睨まないで!?」

「・・・・・・・・・」

 

「人類最大の間違いを犯した気分だ・・・・・・」

「ん?気分ならまだ大丈夫。っていうか、何が?」

「お前と契約せざるを得ない状況に追い込まれたことが」

「しょうがないんじゃない?あの状況じゃ。今更だし」

「・・・・・・」

 

 青年は自分の前に置かれた金属製のコップを片手で弄びながら、溜め息をつきました。先刻、テーブルの上にかしましい銃を置いて目的の人物、つまり自分をボコした人間を待っていた彼は、銃が突然上げた「ハゲだ!」という声で注目を浴びてしまい、その場にいた二人のスキンヘッドの男に喧嘩を売られている最中でした。いえ、正確にはこちらから売った喧嘩であり、スキンヘッドの男たちは喧嘩を買っているという状況なのでした。

「聞いてんのかてめぇ!」

「悪いな、聞いていなかった。それで、何だと?」

「っこの・・・・・!」

 こめかみで血管をはじけさせた男が、バン!と粗末なテーブルを叩きます。もう片方の体格の一回り大きな男が青年の胸倉を掴もうとしたところで、ようやく彼は立ち上がりました。

「まあ多少の誤解はこの際無視するとしよう。一つ聞きたいことがある」

 鋭い群青色の瞳に気圧されたように、男たちが一瞬静かになります。その一瞬の隙間に、青年は言葉を滑り込ませました。

「首から左腕にかけて蛇の刺青を入れている気障な男は何処にいる」

 何者か知らないか、ではなく、何処にいるのか知っているか、でもない、男たちがその刺青の男を知っていると断定しているような問いかけを、酒場にいる他の男たちにも聞かせるように朗々と響かせます。

「な、」

がさり、と空気が動きました。

 スキンヘッドの男たちは先ほどとは別の意味でいきりたちました。

「なんだぁ、てめえ。リッドさんに何か用かよ」

「まさかてめぇみてえなのがリッドさんに取り入ろうとしてんじゃねぇだろうな?」

 周囲の男たちも青年に向かって野次を飛ばします。

「そんなほそっこい身体で何するってんだ、ええ?」「なあおチビさん」「カラダ売って取り入るつもりかあ?」「そりゃいい」「リッドさんの前に俺らの相手してくれよ」「ギャハハ」「まさか殴りこみにいくってんじゃねぇだろぉ?」「ハハ、バッカじゃねぇの」「ありえねぇっつの」「おい、フード取れよ」「リッドさんに会いてえって奴の顔見せろよ、なあ?」「恥ずかしくて顔見せらんないノーってか?」「ハハハハハ」「とんでもねえ不細工なんじゃねぇの」「クソみてぇなツラってか」「クハハハハ」「ギャハハハハ」「ブハハ」「ツラ見せろよオイ!」「マジでクソだったりしてな」「ハハハハハハハはハハハハハハハハハハハハハハハはァ、ヒャハハハァアァ、はハハハハハハハハハハハハハハハハハァッ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハッハハハハハハハハはハハハハハハハハハハハハhhhh」

酒場全体が下卑た嘲笑に包まれる中、一挺の銃と一人の人間は沈黙を守っていました。

前者は一人の人間への恐怖からの沈黙を。

後者は冷ややかな怒気そのものの沈黙を。

「ゲハハ、ハハハハハブッ」

 スキンヘッドの男の馬鹿笑いが唐突に止まりました。

「その聞き苦しい濁声をやめろ、耳が汚れる」

 恐ろしく冷たい、ドライアイスでも負けるのではないかと思われる冷気を含んだ声が断ずると同時に、スキンヘッドの男が床に倒れました。木造の床が悲鳴のように軋みを上げてその巨体に抗議します。特に床に打ちつけたわけでもないその顔は、鼻の骨を見事に折られて白目を剥いていました。

瞬時に静まり返った酒場の中、立ち尽くす男たちの頭の中を、疑問符が駆け抜けます。今、スキンヘッドの男は何をされたのか。一番近くにいた同じスキンヘッドの男たちもわからなかったのですから、この酒場で今起こった事を説明できるのは二人・・・いえ、一人と一挺だけでした。もっとも、彼らに説明してやる義理なんて一片もありませんでしたし、もしあったとしても親切に教えるような彼らではありませんでした。

「何だぁ?」

 そんな暢気な声が現状を理解できないといった風に間抜け極まりない言葉を発します。他の面々も、何が起こったか理解できていないが故に、眼前の細身の人物がどれだけ危険なのかを把握できないでいました。

「何を呆けている」 

 嫌な音がしてこめかみに拳をめり込ませた男が苦痛の声を漏らしました。

「はガッ」

「俺は今―――」

硬いものが折れる音がして禿頭の男が鳩尾を押さえて苦悶の声を漏らしました。

「おぐぅ・・・・・・!」

「お前達に質問したはずだ」

 冷ややかな声音。一般常識に当てはめれば冷静という分類になるその口調は、内容とはそぐわないものでした。

「答えないのならあとは力ずくと相場は決まっている。そうだな?腐れ豚どもが」

「なっ・・・・手前ぇぇ!」

 三人が床に倒れてようやく周囲が反応し始めます。細身で、男性としては平均的な身長の彼が、大柄な男を一撃で昏倒させるなどということは、彼らの常識からしてみればありえないことでした。まさに、彼らは井の中の蛙というに相応しい存在だったようでした。

「やっちまえェい!」

誰かが酔っ払った勢いそのものの声で叫びました。それが、引き金でした。

        ?   て   ヒ    モ 引   逃  れ

   て    ァ    め!  ャ!  ホ  導   げが    

ぎうるせえってんだハゲ! ァえ  れハ  れ ん 渡  やろ  

 ゃ   めウ ん   が  よや  あ さ  ご しい  ォ !

  /   え な  い   れこ んがごぐゥあ ァらて  !ェ

   は  ュ何  払   や  せ   ド   喰ッ!や れ

  ェ は ヒ しっ 沈  店を壊すんじゃねぇやぁてめえらァ!      

 け  あは  酔や  め ぞ ! ッ  の ハ    が

ど  ゅッ はの  が  い ア  バ  こ  ハ  や   !

  ひ ブ こは   るい て   アおのれがァ!ハい   エ

 げ  お   は   アわ や  ぐ  腐   払ハ  ゲ

オヤジぃ、追加ね !  おァ  ら   ァに  代  ハス          

           う  ?  あ な 死 酒 うわこっちくんなバカ                  

 椅子、酒瓶、テーブル、人体は宙を飛び、あちこちに叩きつけられては壁や床を壊します。同時に投げられた物自体も壊れているのですが、店主の目には壁と床しか映っていないようです。壁を壊すな店を壊すな酒代払えとただひたすらに繰り返しています。

だん、と店主の目の前の床が鳴り、そこには陶器人形のように綺麗な顔の人間が身体を縮めて。その群青の海のような美しい瞳が鋭く光ったと思うと、店主は何も分からなくなりました。

革の籠手を嵌めた裏拳を店主の顔にお見舞いした彼は、既に半数が床に伏しているのにもかかわらず酔っ払いの赤ら顔で殴りかかってくる男たちに向き直って、再び拳を握り締めたのでした。

 

 次に彼が立ち止まったのは、店内が店外と半分ほど空気を分かち合い、窓と呼ぶには小さいが隙間というには大きすぎる空間()が壁や天井に散らばり終わった時でした。

「そーいや名前聞いてなかった。何だっけ?」

 呻き声をBGMにした場にその暢気な声は非常識なまでに滑稽に響きました。全ては茶番。全ては戯れ。全ては虚構。銃にとっては全てが等しいとでもいうように。

 

「レヴァインだ」

 

そして、銃の戯曲に付き合う若い男が一人。

 

 

 レヴァインは銃を構え、打ち捨てられた肉の塊の側で膝を折り、口を開きます。

「一つ聞きたいことがある。お前たちが奴の事を知っているということはわかった。奴はどこだ?」

 単刀直入に言いたい事だけを言う彼に、銃が意味もなく口笛のような音を出します。

「レヴィン独壇じょ」

「死ぬか」

「うわあ畜生ごめんなさい」

見事なやけっぱち加減で謝る銃をじろりと睨んで、レヴァインは気を取り直したように銃口をごろつきの額に押し付けました。

「ハッ!誰が吐くか!」

未だ威勢のいいごろつきの顔の隣を、銃弾が音も無く通り過ぎていきました。

「・・・・・・・銃声が、無い?」

「前使ってた人が銃声を嫌ったから消音機能ついたままなんだよね」

 ちなみに消音機能なしでもOK!銃だったら何にでも成れる!ついでに弾丸なんて補充しなくてもいつでもマガジンは満タン!なんてお得なお買い物!と宣伝する銃をすっと手を添える事で黙らせます。

「・・・・・解体(バラ)されたいなら止めないがな」

 冷たい声も一緒に降らされ、銃は沈黙は金、沈黙は金と心に念じながら沈黙します。レヴァインが再度問いを口にすると、ごろつきは鼻血をみっともなく垂らしたまま諦めたように居場所を吐くのでした。

 

「さて、困った」

「何が困った?」

「あの男が吐いた場所はこの国の王宮の隣だ」

「あー・・・・・・ただ乗り込んだんじゃ軍が出てきて御陀仏?」

 じゃあ暗殺かよ畜生、と毒づく銃を懐にしまって、レヴァインは何を馬鹿な、と答えました。

「正面突破だ。この国の軍は銃を使っていない。強行突破は容易い」

「じゃあ何が困った?」

「装備を整える金が無い」

 奴に身包み剥がれたと呟くレヴァインはいっそ装備なんて無くても全然ОKじゃないかと言うほどの殺気を放っていましたが、沈黙は金、と心に呟く銃は大人しく黙っているのでした。

 

 一週間後、ラハンダという砂漠の国で地を揺るがすような爆発音が上がったが、王宮の隣の屋敷を跡形もなく吹き飛ばした賊はまだ見つかっていないという。











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