宝玉/魔玉












 

「寄ってらしゃい見てらっしゃい。
これなるは世界一固い宝珠にございます。木槌で叩いても石で削ってもこれこの通り、傷ひとつつきません。

さて、この玉を割って見せようではないかという勇猛なるお方はいずこに在りや?

剣を使ってもよし、石を使ってもよし、どなたかこの宝珠を割れる方はおられませぬか!

見事割れたあかつきには割れた宝珠共々金の延べ棒3本を差し上げよう!

参加料は銀一両、さぁ寄ってらっしゃい見てらっしゃい!」

 

 道端の石造りの板の上に、青みがかった緑色の宝玉が乗せられていた。盗まれないようにするためか、細い鎖が付いていた。 その宝玉はなんとも美しく、吸いこまれそうな深い色合いをしている。割るなど勿体無い、売ってくれと声をかける者が出る始末だ。

「欲しければ割って頂ければよろしい!さあ!どんな方法を使っても構いませぬ!

宝珠を割れる勇猛かつ豪胆な御方は何処に在りや!?」

 

 名乗りを上げる者がちらほら現れ、宝玉を持ち上げて叩きつける、宝玉に剣で斬りつける、大きな石を持ち上げて宝玉の上に落とした時などはその石の巨大さ、石が落ちたときの地面が揺れる衝撃にどよめきが起こった。

 

それでも、宝玉は傷ひとつつかぬまま。

 

 宝玉に斬りつけた剣はぽっきり折れ、石を落とした時などは下の石板は割れたが宝玉には傷ひとつない。

 

 日暮れになり、薄暗くなった道を見上げて、一日中調子良く文句を唱えていた男は人通りの絶えてきたのを見て溜め息をついた。

「・・・・・・・今日も無理だったか・・・」

 一日で集まった銀十五両を懐に入れ、金の延べ棒を腰の袋に入れて立ち上がる。

「おう、兄さん、その腰の袋を寄越して貰おうか、命が惜しければな」

 突如現れたいかにも粗暴そうな男たちに取り囲まれ、宝珠の男はもう一度嘆息した。立ち去ろうとした途端現れたということは、少し前から狙われていたようだ。

 その溜め息をどういう意味に取ったのか、短彩(トアンシャン)の袖を捲り上げて不恰好な筋肉のついた腕を見せ付けるように肩をいからせて、男たちがにじり寄った。

「またかぁ・・・」

 腰の袋を外した宝珠の男に、周囲の男たちがにやにやと笑う。腰の袋を渡しても、逃がすつもりが毛頭ないのは明らかだった。

ブンッ

 そして風を切る音。

「ごがっ!?」

 手首の捻りを利かせて金の延べ棒が入った腰の袋を男の一人の頭に投げつける。金は重い鉱物だ。顔面に当たればひとたまりもなく骨が砕ける。

 その隙に、あっけに取られた残りの男たちのこめかみに拾った石板を思いっきり叩きつけ残りの一人の顎を蹴り上げた。

「ぎゃっ!!」

「おブッ!?」

 瞬く間に昏倒した男たちを一瞥して、宝珠の男は金の延べ棒が入った袋を拾いあげ腰に括りつける。

「あー今日も壊れませんでしたねぇこの玉・・・」

 銀輪と鎖で己の手首に繋がった宝珠を見て、

「・・・いい加減ヒトの生気吸うのはやめて欲しいんですけどね・・・・・!」

 とり憑いた人の生気を吸う宝珠に憑かれた男は、忌々しげに宝珠を石に叩きつけるが、宝珠は憎らしいほどに無敵で、石にヒビが入るが宝珠はびくともしない。

「はぁ・・・・・誰かコレを砕けるヒトはいないのかなぁ・・・・」

 しょんぼりと肩を落として、男は宝珠を嫌そうに拾いあげ、懐にいれて歩き出す。

 

銘眞(めいしん)ノ国の片隅で、宝珠に翻弄されながら周囲を翻弄する、はた迷惑な男の物語。

 

 

 


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